はじめに:NISAに国債を組み入れる議論が本格化
2025年末から2026年にかけて、日本の投資制度をめぐる議論が大きく動いています。その中でも特に注目されているのが、国民民主党が「NISAの対象に個人向け国債を加えるべき」と主張している点です。
2025年12月8日の衆議院予算委員会で、国民民主党の議員が高市首相に対し「日本株や日本国債を対象とした国内投資枠をNISAに新設すべきではないか」と質疑を行いました。これに対し高市首相は「活用状況を見極めたい」としつつ、家計の安定的な資産形成の観点から投資対象の分散が重要と回答しています。
現在のNISA制度では、個人向け国債は対象外です。しかし、日銀の金融政策転換や金利上昇局面を背景に、「安全資産である国債もNISAで非課税運用できるようにすべき」という声が野党だけでなく与党内からも上がり始めています。
この記事では、国民民主党の主張の背景と意図、実現した場合のメリット、そして投資家が知っておくべき注意点を6,000字超で徹底解説します。
現行NISAの仕組みと国債の位置づけ
NISAで買えるもの・買えないもの
2024年にスタートした新NISAは「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の2つの枠から構成されています。
| 枠 | 年間上限 | 対象商品 |
|---|---|---|
| つみたて投資枠 | 120万円 | 金融庁が指定した投資信託・ETF |
| 成長投資枠 | 240万円 | 上場株式・投資信託・ETF等 |
個人向け国債(変動10年・固定5年・固定3年)は、どちらの枠でも購入できません。NISAの対象は「株式」「投資信託」「ETF」に限定されており、国債・社債などの債券は直接購入の対象外です。
なぜ国債はNISA対象外なのか
NISAが2014年に創設された当時、制度の目的は「貯蓄から投資へ」の流れを促進することでした。預金や国債などの安全資産ではなく、株式や投資信託といったリスク資産への投資を後押しするための非課税制度という位置づけだったため、国債は意図的に対象から外されていたのです。
しかし、10年以上が経過し、NISAの口座数は2,400万口座を超え、制度の成熟とともに「リスク資産だけでなく安全資産も含めた包括的な資産形成を支援すべき」という議論が高まっています。
国民民主党の主張:NISA国内投資枠に国債を
主張の概要
国民民主党は、NISAに「国内投資枠」を新設し、その対象に日本株と日本国債を含めるべきだと主張しています。これは単なる投資商品の追加ではなく、以下の複合的な政策目的を持っています。
主張の背景にある3つの意図
①「手取りを増やす」政策の一環
国民民主党の看板政策である「手取りを増やす」方針の延長線上にあります。103万円の壁の引き上げや消費税減税と同様、個人の可処分所得・資産を実質的に増やす手段として、国債利息の非課税化を位置づけています。
現在、個人向け国債の利息には20.315%の税金(所得税15.315%+住民税5%)がかかります。変動10年の金利が1.55%の場合、100万円保有で年間15,500円の利息のうち約3,149円が税金で引かれます。NISA対象になれば、この税金がゼロになるわけです。
②日銀の国債買入縮小の受け皿
日銀は2024年から量的引き締め(QT)を開始し、保有国債の縮小を進めています。日銀が買わなくなった国債を誰が引き受けるのかは、日本の財政にとって極めて重要な問題です。
海外投資家への依存度が高まれば、金利の急変動リスクが増大します。国民民主党は、国内の個人投資家を国債の安定的な引き受け手として育成することで、財政の安定性を確保しようとしています。
③資産所得倍増プランの深化
岸田政権時代に掲げられた「資産所得倍増プラン」は、新NISAの恒久化などで一定の成果を上げました。しかし、NISAで投資できるのはリスク資産のみという構造では、投資初心者やリスク許容度の低い高齢者層が参加しにくいという課題が残ります。
国債をNISA対象に加えることで、「投資は怖い」と感じている層にも非課税の資産形成の道を開くことが期待されます。
自民党内でも類似の議論が浮上
資産運用立国議員連盟の提言
注目すべきは、国民民主党だけでなく与党・自民党内でも同様の議論が進んでいる点です。自民党の「資産運用立国議員連盟」は2026年4月下旬にまとめた提言案で、以下の改革を検討しています。
- 個人向け国債の利回り引き上げ:変動10年の利子計算で基準金利×0.66の係数を見直し
- 解約規制の緩和:現行の1年間解約不可ルールの短縮
- NISAと同水準の税制優遇:国債利息への非課税措置の検討
つまり、「NISA対象に国債を加える」か「国債に独自の非課税枠を設ける」かの方法論の違いはあれど、個人向け国債の税制優遇を拡大すべきという方向性は与野党で一致しつつあるのです。
2026年度税制改正で実現した「一歩前進」
つみたて投資枠に債券ファンドが追加
2025年12月に決定した令和8年度(2026年度)税制改正大綱では、NISAに関する重要な変更が盛り込まれました。
つみたて投資枠の対象商品が「主に株式に投資するもの」から「主に株式又は公社債に投資するもの」に拡大されたのです。これにより、債券(国債含む)に50%超を投資する投資信託がNISAのつみたて投資枠で購入可能になります。
個人向け国債の直接購入は依然として対象外
ただし、この改正はあくまで「債券に投資する投資信託」が対象であり、個人向け国債そのものをNISA口座で直接購入できるようになったわけではありません。
国民民主党が求めているのは、投資信託を介さず個人向け国債を直接NISAで非課税保有できる仕組みであり、この点はまだ実現していません。
0歳からのNISA口座開設も実現
2026年度改正では、NISA口座の開設年齢制限(従来18歳以上)が撤廃され、0歳〜17歳にも「つみたて投資枠(年間60万円・上限600万円)」が設けられました。子どもの将来のための資産形成という観点では、安全資産である国債ファンドの選択肢が広がったことは大きな進展です。
NISAに国債が加わった場合のメリット
メリット①:利息が完全非課税に
最大のメリットは、国債の利息にかかる20.315%の税金がゼロになることです。
| 保有額 | 年利1.5%の利息 | 現行の税引後 | NISA対象の場合 | 年間節税額 |
|---|---|---|---|---|
| 100万円 | 15,000円 | 11,953円 | 15,000円 | 3,047円 |
| 500万円 | 75,000円 | 59,764円 | 75,000円 | 15,236円 |
| 1,000万円 | 150,000円 | 119,528円 | 150,000円 | 30,472円 |
金利上昇局面が続く現在、変動10年国債の金利は1.55%前後まで上昇しており、非課税のメリットはますます大きくなっています。
メリット②:投資初心者のNISA参入ハードルが下がる
「NISAに興味はあるが、株や投資信託は値下がりが怖い」という層は依然として多く存在します。個人向け国債は元本保証(国が保証)であり、最低金利0.05%も保証されています。
国債がNISA対象になれば、リスクを取れない人でもNISAの非課税メリットを享受でき、「貯蓄から資産形成へ」の流れが加速します。
メリット③:高齢者の資産形成に適する
65歳以上の高齢者世帯が保有する金融資産は約1,000兆円と言われています。しかし、その多くは普通預金や定期預金に眠っています。リスク資産への投資を促すのは現実的ではありませんが、元本保証の国債なら安心して保有できます。
高齢者層の資金が国債市場に流入すれば、日銀のQTに伴う国債の受け皿問題も緩和されます。
メリット④:国内への資金還流
現在のNISAでは、人気の投資先が米国株インデックスファンド(S&P500やオルカン)に集中しており、NISA経由で大量の資金が海外に流出しています。これは円安要因にもなっています。
国債をNISA対象にすることで、資金の一部が国内に留まり、円安圧力の緩和にもつながる可能性があります。
知っておくべき注意点とデメリット
注意点①:制度の目的が変質するリスク
NISAの本来の目的は「貯蓄から投資へ」です。元本保証の国債を対象に加えると、実質的に「非課税の貯蓄制度」になりかねません。投資信託や株式への資金流入が減少し、資本市場の活性化という本来の政策目的が薄れる懸念があります。
注意点②:非課税枠の奪い合い
NISAの非課税保有限度額は1,800万円です。この枠を国債で埋めてしまうと、株式や投資信託への投資余地が減ります。特に長期的なリターンで見れば、株式の方が国債より高いリターンが期待できるため、非課税枠を国債に使うことは機会損失になる可能性があります。
| 資産クラス | 過去20年の年平均リターン(目安) |
|---|---|
| 日本国債 | 0.5〜1.5% |
| 日本株(TOPIX) | 5〜7% |
| 米国株(S&P500) | 8〜10% |
| 全世界株式 | 7〜9% |
非課税の恩恵は「リターンが高いほど大きい」ため、合理的に考えれば株式に非課税枠を使う方が節税効果は大きいのです。
注意点③:債券ファンドと個人向け国債は別物
2026年度の税制改正で「債券ファンド」がNISA対象になりましたが、これは個人向け国債とは異なります。
- 個人向け国債:元本保証、途中解約は1年後から可能、金利は固定または変動
- 債券ファンド:元本保証なし、金利上昇時に基準価額が下落するリスクあり
「NISAで国債に投資できるようになった」と聞いて債券ファンドを購入し、金利上昇で元本割れするというケースには十分注意が必要です。
注意点④:財政規律への影響
国債購入を税制で優遇することは、裏を返せば「国の借金を国民に買わせやすくする」ということです。日本の政府債務はGDP比250%超と先進国最悪の水準にあり、国債の消化を容易にすることで財政規律がさらに緩むリスクがあります。
国民民主党自身が消費税減税の財源として赤字国債発行を主張している点と合わせて考えると、「国債を発行しやすくし、かつ国民に買わせやすくする」という一貫した財政拡張路線の中に位置づけられます。
注意点⑤:実現までの道のりは不透明
個人向け国債をNISA対象にするには、租税特別措置法の改正が必要です。金融庁・財務省・国税庁の調整、与党税制調査会での議論を経る必要があり、早くても2027年度以降の実現になると見られています。
投資家はどう備えるべきか
現時点でできること
- NISAでは引き続き株式・投資信託を優先:非課税枠のリターン最大化を考えれば、国債より株式の方が合理的です
- 個人向け国債はNISA外で保有:特定口座や一般口座で個人向け国債を購入し、安全資産としてポートフォリオに組み入れましょう
- 2026年度のNISA改正を活用:債券ファンドがつみたて投資枠対象になったことで、バランス型の運用がしやすくなっています
- 金利動向を常にチェック:変動10年国債の金利は市場金利に連動します。日銀の金融政策会合の結果をこまめに確認しましょう
金利チェックにはアプリが便利
住宅ローン金利や市場金利の動向は、日銀の政策変更や経済指標によって日々変動します。「ローン管理&シミュレーター」アプリを使えば、最新の金利データをリアルタイムで確認でき、金利変動が自分の返済額にどう影響するかをシミュレーションできます。
今後の展望:実現するとしたらいつ?
2027年度税制改正が焦点
2026年度は債券ファンドのNISA対象化という「一歩前進」がありました。次のステップとして、2027年度の税制改正で個人向け国債のNISA対象化、あるいは国債独自の非課税枠創設が議論される可能性があります。
参議院選挙が追い風に
2025年の参議院選挙で国民民主党が議席を伸ばしたことで、税制改正への発言力が増しています。与党が過半数を維持するために国民民主党との協力が必要な場面が増えれば、NISA国債対象化が政策交渉のカードになる可能性もあります。
国際的な潮流
英国のISA(Individual Savings Account)では、国債を含む債券が非課税対象になっています。日本のNISAは英国ISAをモデルに創設された制度であり、「本家では国債も対象なのになぜ日本では対象外なのか」という議論は説得力を持ちます。
まとめ:投資家が今知っておくべきこと
- 国民民主党は「NISAに国債を」と主張 — 国内投資枠の新設を提案し、日本株と国債を対象に加えることを求めている
- 自民党内でも類似の議論あり — 利回り引き上げ・解約規制緩和・非課税措置を検討中
- 2026年度改正で債券ファンドはNISA対象に — ただし個人向け国債の直接購入は依然対象外
- メリットは大きい — 利息非課税、投資初心者の参入促進、国内資金還流
- 注意点も多い — 制度目的の変質、非課税枠の機会損失、財政規律への影響
- 実現は早くて2027年度以降 — 当面はNISAで株式運用+NISA外で国債保有が合理的
金利が上昇する局面では、住宅ローンの借入条件も大きく変わります。「自分の金利は市場平均と比べて高いのか?低いのか?」を知ることは、家計管理の第一歩です。
※本記事は2026年6月時点の情報に基づいています。税制改正の詳細は金融庁・財務省の公式発表をご確認ください。投資判断は自己責任でお願いいたします。



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